陶芸を中心に愛犬柴犬、趣味の家庭菜園、釣り、テニスなどを画像入りで書いていました。今は花・自然・テニス・釣り・料理・旅行などを日記風に綴っています。

『ホームレス歌人のいた冬』(三山 喬著)を読んで
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  * (柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ  

                         (ホームレス)公田 耕一


三山 喬著の『ホームレス歌人のいた冬』です。

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このところ、私は全く本を購入していません。
まだ読んでもいない沢山の本を、旧家に打ち捨ててきた無念な気持ちを引きずっています。

前年友人に薦められて、川本三郎著の『いまも、君を想う』を買っただけです。
歌人河野裕子の短歌集は以前から読みたいと思っていました。お亡くなりになられて、遺稿集が出版されたことを知り、それも読みたいと探しているところです。

久々に注文した本が6月7日(火)に届きました。
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プロローグの次は、第一章「まるで写楽のように」です。

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第一章を読むうちに涙が出て堪りませんでした。何度も顔を洗い、眼鏡を拭きました。

何日か前、テレビで「写楽」のことが放映されていました。
「東洲斎写楽は一体誰だったのか?」の特集です。
クマノミさんがこの世にいた時は、「写楽」の本を買い、浮世絵の画集を見ては「写楽はだれか」などと論じたりしていました。
テレビの特集では、結論として「東洲斎写楽は能役者齋藤十郎兵衛である。」とのことでした。

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私は新聞は朝日と決めていて、これまで四十数年間購読してきました。
したがって、朝日歌壇は割合よく目を通していました。
他の新聞を購読されていたり、短歌に興味のない方は、「ホームレス歌人公田耕一」についてご存じないかもしれません。
字が小さくて読みづらいのですが、読んでみてください。

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2008年12月8日の朝日歌壇の入選作の中に、住所欄が(ホームレス)になっている人がいました。
それ以来、次々に入選を果たしました。
私も驚きました。入選作に公田さんの歌があるかどうか、まず探すようになっていました。

朝日新聞社から名乗り出てほしいという記事も出ました。
公田さんは三十六首の短歌を残して、9ヶ月間で投稿を止めてしまいました。
東洲斎写楽の大首絵は10ヶ月で終わりました。
「まるで写楽のように」というのは、こういう事情からです。

著者の三山さんは、9ヶ月間探索しても公田さんと出会えませんでした。
公田さんは今はドヤ街のどこかで、ひっそりと暮らしているだろう。」と著者は考えています。

そして著者は探索を止めたときの心境を次のように述べています。

 私が探し求めたものは、結局のところ、苦しみの中で自らを真摯に見つめる心だった。
人は絶望的な苦境に立たされると、心に蓋をしがちになる。だがそれは、希望をも遠ざけてしまう自己防衛である。それでも、もし、傍らに「表現」という自己確認の手立てがあれば・・・・・。そうした行為がもしあれば、極寒の路上でも孤独な独房でも、人は自分自身のまま生きて行くことができるのではないか。私はこの探索から、そのことを学んだ。

私は一晩でこの本を読み終えました。
私は翌朝、納豆に卵を混ぜながら、公田さんは今頃どうしているだろうと思いました。
私は就寝前ベッドに横たわりながら、マンションの部屋を眺めてみました。
そして、「柩のような一室」に思いを馳せました。
私は三山さんと同じように、公田さんは短歌という表現形式で自らを真摯に見つめ続けておられると確信します。

最後に何首かご紹介いたします。

   鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ捨てたのか

   パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる

   親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす

   哀しきは寿町と言ふ地名長者町さへ隣にはあり

   胸を病み医療保護受けドヤ街の柩のやうな一室に居る

                        (ホームレス)公田 耕一
 

   2011.6.9         くまお

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あさのひかり(社長)さんへ
全く社長さんの仰られる通りですね。
「誰かに自分の気持ちを、生活を、見て聞いた事、体験した事を知って欲しい」のは、誰でも同じです。それが伝わった時の喜びは一入です。
朝日歌壇に投稿して入選を果たした9ヶ月間、公田さんは胸が熱くなるほどの喜びを感じられたことでしょう。
私は今回のブログを少し重い気持ちで綴りました。「知って欲しい」ことが伝わった喜びは、私も一入です。 くまお
 くまお | URL | 2011/06/11/Sat 17:59[EDIT]
能あるタカは姿も隠す
後世にも残る美術、文学、音楽を生み出す天才達は決して恵まれた人生を歩んでいません。在命中は評価が低く、貧乏で孤独で人間関係に悩みながらも美をこの世に作り出す。そんな人生を生きているからこそ素晴らしい作品を作り出せたのかもしれません。
現代ではメディアの煽りで猫も杓子もすぐに有名になり、なったとたんに飽きられてすぐに忘れられてしまいます。そのために折角の才能や可能性がかえってダメになることもしばしばです。
公田さんはホームレスという立場から感じたことを短歌にする非凡な才能をお持ちです。短歌集などを出版すればホームレスを脱し、有名になって豊かな生活を送れたかもしれないのにあえてそうしなかったのは、彼が自分の作品を愛しているからだと思います。誰かに自分の気持ちを、生活を、見て聞いた事、体験した事を短歌を通して知って欲しい。ただそれだけの理由で新聞に投稿していたように思われます。この時代にそんなへりくだった歌人が日本のどこかでひっそりと生きているなんてなんて素敵なんでしょう。
またいつか、我々の心の目を覚ましてくれるような作品を出して欲しいと思います。
あさのひかり(社長) | URL | 2011/06/11/Sat 14:17[EDIT]
あさのひかり(社長)さんへ
お読みいただきありがとうございました。大変うれしく思います。
公田さんは出版などの誘いを受けませんでした。「ホームレスだからこそ」このような歌が詠めたのですね。
石川啄木は詩人を目指したけれど評価されませんでした。その悲しみが短歌で表現されました。公田さんの歌は、啄木の短歌に大変よく似ているように私には思えます。
社長さんが仰られるように、下手に有名にならない方がいいのでしょう。
「どうか無事でいてほしいし」と私も思います。
そして、人の心を揺さぶる短歌を作り続けていてほしいと思います。
こんなに素晴らしい短歌の才能のある方ですから。
 くまお | URL | 2011/06/10/Fri 14:56[EDIT]
ホームレスだからこそ
色んなものを持っている、持ち過ぎている私にはそんな彼の視点や感じ方にハッとさせられます。くまおさんの今日のブログを読むまでこの方もこの方の短歌も知りませんでした。正体が誰なのかは不明なままの方がよい気がします。下手に有名になってしまったらきっとこんな短歌は生まれないでしょう。ただ無事に元気に暮らしてくれている事を願います。
あさのひかり(社長) | URL | 2011/06/10/Fri 11:34[EDIT]
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