陶芸を中心に愛犬柴犬、趣味の家庭菜園、釣り、テニスなどを画像入りで書いていました。今は花・自然・テニス・釣り・料理・旅行などを日記風に綴っています。

句集『汗の眼』(棟上碧想子)を読んで
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句集『汗の眼』(棟上碧想子)をいただきました。
俳人棟上碧想子の息子さんからです。
浅学な私は、碧想子のことは知りませんでした。

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昭和11年、碧想子22歳の作です。


    * 汗の眼がベルトに巻かれまいとする 

    * ためいきと西日がへばりついた窓

    * 腑を衝いて十二時間労働果てしベル

    * 瀉きそうな表情が扉をもまれ出る
 

俳人日野草城は「汗の眼」の句について、(昭和31年)の「朝日俳話」で次のように述べています。

棟上碧想子の代表作の一つ。満面の汗、しみ込もうとする瞼の汗をまつ毛が辛くも防いでいる。塵埃の渦巻く中を大きなベルトが低くうなりながらのた打っている。うっかりしていて巻き込まれたら腕一本もぎとられる。悪くしたらあの世へ直行だ。毎秒がいのちの瀬戸際だといえる。緊張しているつもりでも、疲れと暑さでつい気がゆるみはっとして立直るのである。真剣なまなざしが見えるではないか。
 忍び寄る悪魔に抵抗する必死な気組が痛いように伝わって来るではないか。
 この俳句最近のものではない。二十年程前新興俳句運動により「風流から生活へ」と俳句の基本的観念が大きな転向を示し始めたころの作品である。生活俳句として、また口語俳句として、先駆的秀作の一つであるが、今日でも立派に通用する。」


棟上碧想子の俳歴を見てみます。

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「京大俳句」(昭和8年創刊)や「旗艦」(昭和10年、草城が創刊)などに参加しています。
この当時、新興俳句運動が興り、碧想子はこの運動に加わりました。
上掲句等により、東京「芝火社」の新興俳句作家賞を受賞して、華々しくデビューしました。
しかし、新興俳句運動にとって、時代の流れは厳しくなるばかりでした。

昭和12年には、盧溝橋事件が発端になり、日中戦争へと突き進んで行きました。
昭和13年には、「京大俳句」は「支那事変」俳句を特集しました。
昭和15年には、「京大俳句」事件が起こり、平畑静塔らが検挙されました。新興俳句運動への思想弾圧であり、日野草城は「旗艦」の指導的位置から退きました。
そして昭和16年、日本は太平洋戦争へと突き進んで行ったわけです。

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昭和13年(24歳)の碧想子の句です。

  * 爪のいろ美しくまづしさ極まれり

  * 戦死報スチームがパチパチと鳴る

  * 銃眼と銃眼と對き年かはる

  * 銃眼をつらね地平を凍らしむ

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碧想子は、「心あたゝまる記憶」(昭和28年「青玄」)で述懐しています。

「昭和十四年の暮、この頃から私の俳句意欲は急激に衰えはじめた。大戦前夜の不安と焦燥と懐疑が、私の人生観をすっかり狂わせてしまったのである。・・・・・昭和十六年の終わりには殆んど作句をやめてしまっていた。」

戦後碧想子は、「青玄」(日野草城主宰)、後に「天狼」(山口誓子主宰)の同人として活躍しました。

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  * 山茶花や天に草城 地に誓子

  * 乳母車花の広場へつきはなす

  * 水常に川幅流る秋の闇


碧想子の戦後の句より、私の好きな句を上げてみます。

  * 汽鑵(かま)の火が裸の胸の幅照らす

  * 佳き熟睡井中に西瓜遊ばせて

  * 風呂敷のどこおさへても柿の丸み

  * 滝水の流れくる巾流れゆく

  * 落葉焚き昨日の土をまた焦がす

  * 人生の裏側で火を焚いておる

  * わが経たる一茶の齢秋の暮

  
棟上碧想子の句集『汗の眼』が上梓されたことは、まことに嬉しい限りです。
汗の眼がベルトに巻かれまいとする」の句は、私にチャップリンの映画「モダン・タイムス」の一場面を想起させてくれます。

この句は、正義感に燃えた二十二歳の青年の悲痛な叫びのようです。 
その叫びは今もなお鮮烈に胸に響いてきます。

    2011.11.12        くまお


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   * 2011.11.11の夕空





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